先日、映画『幻滅』を観に行きました。
19世紀前半、フランスパリを舞台に書かれたパルザックの「人間喜劇」の一編、『幻滅』を映画化した作品。
200年も前の作品とは思えない程、今と変わらない人々や社会の在り方が鋭く描かれていて、2時間半と少し長めの上映時間だったのですが、面白すぎて、あっという間でした!
以下、ネタバレ含む感想です。
思わず、深いため息…C’est la vie!(それが人生と言うもの!)と誰かに囁かれているような、そんな映画でした。
主人公のリュシアンには、どうか、運命を受け入れ、新しく生まれ変わり、また美しいものを求め続けて欲しい、と願います。
でも、続きはわからない。
若さとエネルギーが最も溢れ出る時期に、無駄に才能を使い、裏切られ、傷つき過ぎた心は、もう戻れないのかも。
このように理不尽に消された、若くて気高い志しをもった芸術家が、きっと大勢いたのだろう。
パリは、沢山の芸術家が生まれた華やかな芸術の都としてのイメージが強く、芸術家に対して寛大で、皆が芸術を愛している、と幻想を抱きがちだが、やはり、ここでも、神はお金。人々は、メディアに踊らされ、何が真実かは、あまり重要では無かった。不安と退屈を紛らわせる面白いネタを求め、成功した者を見たいのだ。現代と何ら変わらない。
なるほど、フランスの気怠い灰色な感じの詩や音楽は、こういう時代があって、生まれたのだと思うと、ものすごく納得出来る。この行き過ぎた世界の先にはもう、退廃的な香りしかしない。
そして世界大戦前のパリの芸術が最も華やいだ、ベルエポックの時代へと向かう。
止められない人々の欲望とお金への執着、虚構の世界、嫉妬や妬み、純粋で美しいものへの渇望、古代神話世界、古典への回帰、憧れ、愛…あらゆるものが入り乱れる。
清く、正しく、美しい人間など、いない。
正義はどこに? 真実は?
全てのことには、表と裏があり、どこを見るのか?は、その人次第。
印象的だってのは、映画の中で唯一、純真無垢で美しいものとして主人公リュシアンとの恋愛が描かれたこと。そして、その場面はいつもシューベルトの音楽が流れた。
パリの華やかで洗練されたパーティや享楽的な生活、欲望が渦巻き活気に満ちた街の描写には、華やかなバロック音楽や洗練された古典派の音楽がピッタリ?!だったけど、二人の恋愛には、素朴で優しく、純真なシューベルトの「野薔薇」や「セレナーデ」がよく似合う。
若さと才能、自尊心、虚栄心、純粋さと、全てが同居していて危なかしくも魅力的なリュシアン、彼に健気に一途な愛を捧げる恋人コラリー。彼を捨てた、美しく、流されやすい伯爵婦人のルイーズ。しっかり駆け引きが出来て、芸術家としての誠実さも失わない友ナタン。
リュシアンにパリで生き残る術を教えるルストー …などなど。人間描写も役者の演技も素晴らしく、それぞれに魅力的で、共感出来てしまう。
ありのままの姿をジャッジせずに描き、道徳を押し付けて来ないところ、全てを含め人間である、という価値観が根底にあり、温かく、人間愛に溢れているように思う。
ロマン派〜後期ロマン派、ベルエポックの時代の音楽を演奏する人、お好きな人には、特におすすめ。近代フランスのとっつき難い詩や音楽の雰囲気を感じる手助けにもなると思います!