Profile

田村真理子

福岡市出身。
福岡雙葉高等学校卒業。京都女子大学文学部 教育学科 音楽教育学 声楽専攻卒業。
ドイツ歌曲、フランス歌曲を中心に研鑽を積む。ベートーベン「第九」のソリストなど務めたほか、ルーマニア・オラディアにて春の音楽祭の出演、学校、病院、美術館、カフェなど、様々な場所でのコンサート、講師を招いてのセミナー企画、声楽のプライベートレッスン、ヴォイストレーニングなど行っている。また最近は、参加型コンサートにも積極的に取り組んでいる。
2010年より、レゾナンツ・クライス声楽教室主宰。
無理のない自然な発声から来る美しい響きと表現を目指す。
音楽や詩のより深い理解のために西洋思想、神話、哲学も勉強中。
声楽を故・西内玲氏、呼吸法を藤代顕子氏に師事。
Charis (カリス) https://resonanz-kreis.amebaownd.com/、音楽工房はればれhttps://uemuramusic.wixsite.com/harebareのメンバーとしても活動。

 

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ここからは、私と歌との出会い、どの様に勉強してきたのか…などを書いています。少し長いですが、ご興味のある方は、お読み頂けると嬉しいです!

歌と私

1.歌の歩み

はじめて声楽というものを知ったのは、大学受験の時です。それまでは、音楽の授業で鑑賞したなぁ…くらいのことで、全く遠い存在でした。でもイタリア歌曲を歌ってみると、メロディが本当に美しく、特に初めてのホールでの発表会では、今までにない解放感を味わい、これが声楽なんだ!と、新鮮に感動しました。

もともとピアノがやりたくて、音楽専攻を目指していたし、人前に出るのが苦手で、歌う時も何故か恥ずかしくて、蚊の鳴くような声でしか歌ってこなかったのに、思いもよらない出会いとなりました。

その後、大学に入学し、イタリア歌曲1巻2巻と色々歌って、益々、歌うことが楽しくなり、トスティ、ドナウディ、ベッリーニなどの歌曲も知ることとなります。こんなに甘くて美しいメロディがこの世にはあるのだなぁ〜と、1人、練習室で感動しながら、弾き歌いに没頭しました。

声楽を始めてしばらくすると、オペラアリアをヘンデル、モーツァルト、プッチーニ、ヴェルディ…と有名どころを色々歌い、役になりきりドラマチックに歌う楽しさも知りました。

オペラ歌手を目指すわけで無くても、オペラの勉強は、歌を続けて行くのなら、テクニックのために大切なことだと理解し、以来、今でもずっと歌い続けています。

でも、なんと言っても私の心を掴んだのは、リート(ドイツ歌曲)でした!

歌は芸術であると、意識したのもリートをはじめたことがきっかけです。

国民性や歴史的背景、その時代の文学、絵画などの芸術と深く結び付き、作曲家の私的な表現としての音楽であると同時に、普遍的な人間の表現でもあるということが感じられ、世界が一気に広がりました。糸を紡ぐグレートヒェン、ミニョンの歌、ガニュメート、月に寄せて、セレナーデ、ます…などなど、あげるとキリが無いのですが、特にシューベルトの世界が大好きになり、ピアニストとの合わせで一緒に細やかに表現を考え音楽を作って行く楽しみも知りました。

そこから、バッハ、モーツァルト、シューマン、ブラームス、シュトラウス、ヴォルフ、マーラー、シェーンべルク…などなど、たくさんの作曲家と出会い、これは一生楽しめる!と確信したのです。

大学卒業後も、ブライダル歌手や高校の音楽講師をしながら、自分のペースで少しずつ取り組みました。特にシューマンのミルテの花、女の愛と生涯やリーダークライス、などは、ドイツに短期留学をした時にもレッスンを受けたりして、時間をかけて勉強しました。

若い時にサラッとやったり、聴いたりしていて、これからまた、じっくり勉強したいと思っている曲もたくさんあるのですが、特にシューベルトの冬の旅やシュトラウスの4つの最後の歌、ブラームスの4つの厳粛な歌、マーラーの歌曲などなど、年を重ねたこれからだからこそ、深められると思っています。

フランス歌曲については、大学でフランス語を専攻していたこと、フランス映画にハマって、手当たり次第見ていたこと、その頃見た忘れられない作品の中に『めぐりあう朝』『王は踊る』『マリーアントワネット』など、フランスバロックの時代を描いた映画があり、それがきっかけとなり、マランマレやリュリ、ラモーの作品を知り、古楽の魅力にもハマりました。同時に、この国の洗練された文化、思考、人々のクールで大人な感じに憧れを抱きつつ、フランスの音楽をうっとり聴き、いつかやりたいと思ってはいたものの、なかなか勉強するきっかけもなく、やっとフランス歌曲に取り組むことになったのは、子どもが幼稚園に入った30代後半になってのことです。

やり出すと、やはり水のように浸れる感じが心地よく、フォーレの月の光、夢のあとに…など有名な歌曲からはじめて、グノー 、ドビュッシー、ショーソン、ビゼー、シャブリエ、ラヴェル、プーランク、アーンなどなど、色々な作曲家との出会いがありました。子育てと両立しつつ、歌の世界にいる時が私の至福の時間となりながら、細々ではありましたが、マイペースに取り組み続けました。

これから、まだまだ勉強したい曲がたくさんあるのですが、特に、フォーレを歌った後の余韻やドビュッシーの『忘れられし小唄』の世界観、プーランクの『偽りの結婚』のルイーズ・ヴィルモランの詩は、私をとても惹きつけるし、アーンの歌曲は、やっぱり魅力的で、もっともっと歌って行きたいと思っています。

フランス歌曲の言葉の響きや少しモヤのかかったような雰囲気が好きで、自分に合っていると感覚的には感じるものの、同時に、詩の解釈などで行き詰まることも多く、もっと西洋文化を根本から知りたいと思うようになりました。

同じヨーロッパでも、ドイツともイタリアとも全然違うところが、とても興味深く、ヨーロッパの国々がそれぞれ個性的で独自の音楽や文化を生み出すに至った理由、それぞれに惹かれる理由も知りたくなり、ヨーロッパの文化や歴史、根本に流れる思想を学び始めました。
はじめは、もともと興味のあったタロットや数秘術から、ヨーロッパ文化や思想を学んでいたのですが、そこから始まって、今は、そのもっと根っこの部分である、古代ギリシャ神話や哲学、それに文学も知れば知るほど、ギリシャ時代には、すでに現代にまで繋がるあらゆる芸術作品や思考の雛形が出来上がっていたことに驚かされます。ヨーロッパがその歴史の中で、何度もギリシャ時代の英雄伝や神話の世界に立ち返り、そこから新しい芸術を生み出して来たことも納得出来ます。
今ここに、こうしている私たちと同じように誰かを愛し、結ばれ、あるいは失い、捨てられ、悲しみ、時には怒りをあらわにする…そのような、2600年前から変わらぬ生の営みを知り、それが、歌の言葉の中に、音楽の中に表現できたらと思っています。

 

2.発声のこと

声を出すって何て気持ちのいいことだろう!

と、思った日から、私の歌人生は始まりました。でも、あの気持ち良さは、いつも得られるわけでも無く、それを探して行くうちに、もっと良いものがあり続けるのだという事を知ることとなりました

自分の身体のクセ、硬さを知り、いつも自分の身体の感覚を頼りに、より自由を感じられるところ、深い呼吸が出来るバランスの良いところ、柔らかく美しい響きを得ることができるところを探しています。

また、そうすることで、日々変化する自身の身体を受け入れ、心と身体を整えることも出来るのです。

私は長年、ヨガをやっているのですが、ヨガとは、心と身体と魂が繋がるための修行のことを言い、私の中では、演奏するということもまた、精神と肉体と音楽が繋がるものであり、ヨガ的なものなのです。

良い響きを求めて自身を調整することは、心と身体を整えて行くことでもあり、歌はセラピー的要素が強いと思います。

それに、自分が歌を教える立場になり、歌うという感覚的なことを言葉にする機会をたくさん得ることが出来たおかげもあって、音楽や歌うことがあらゆる自然のことわりと繋がっているということを実感しています。

私たちは、自然に触れると癒され、元気になります。自然の法則に従った発声により歌われる、無理のない音の響きと音楽の流れは、まるで自然に触れた時のような、癒しを与えてくれます。そんな美しい響きで、普遍的な人間の心を表現した詩を歌った歌が、私たちの心を震わせるのは、当然とも言えます。でもそれは、逆に不自然なものは違和感や別の何かを与えるとも言えます。音楽には、人の心に作用する強い力があり、それは、時に毒にもなり得るのです。

ギリシャ神話の世界に登場する芸術の女神ミューズは、秩序と平和と正義を司るゼウスと記憶の女神アネモシュネとの間に生まれました。
それが意味するところは、芸術とは、人々に自然の理を知らしめるものであり、記憶に残り続けるもの、良き方向へ導くものである、ということ。

つまり、良い発声や音楽を求め続けることは、この世の秩序を知り、自然を受け入れ、より自由な人間になって行くこと、とも言えると思います。

歌の勉強を始めてからこれまでの間に、たくさんの方々のレッスンを受け、ワークショップやセミナーにも積極的に聴講し、参加して来ました。中でも、もっとも私の軸を作り、大きな影響を与えてくれたのは故・西内玲先生なのですが、そういった経験から学んだことは、絶対的なやり方は無く、最後は自分の感覚で選んで行くということ、その感覚は、多分一生、研ぎ澄まし続ける必要があるということです。

価値観が多様化し、何でもありで、様々な音楽が溢れる現代において、より良いものを探すことは不毛のように思われるかもしれません。

ですが、私は、より良いものにこそ、あらゆることの真実が潜んでいて、それを知ることでより自由を手に入れることが出来ると思うのです。ですから、これからも、こうして音楽とめぐり合い、歌う機会に恵まれたことに感謝しながら、より良いものを探し続けるための感性を磨き、歌詞を深く理解し、自然で美しい歌を目指して、歌って行きたいと思っています。